遊ばまほしきばかりなれど
チェス。
「クレイジー」
リビングに移動して用意した椅子に腰を下ろしながらマスターは呼び付ける。
「よく見ておけ」
キーラが椅子に腰を下ろすとダーズは用意してきたチェス板をふたりの間の丸テーブルの上にセットした。クレイジーは言い付けに従いマスターの後ろに回って並べられる駒を見つめる。
「たかがゲームだと思うかもしれないが。内容は普段俺たちがやっている事と変わらない」
ゲームは静かに幕を開ける。
「戦う上で犠牲は付き物だとしても最小限に」
駒が動く。
「常に相手の一手先二手先を見据えて」
短い手数で。
「……捉える」
双方共に少しの考える素振りも見せずとんとん駒を動かすので盤面はみるみる内に変化した。魅入る弟陣を差し置いて兄ふたりは無言で淡々と駒を進めていき──遂に。
「チェック」
マスターのキングがキーラのキングを捉えた。
「ふむ」
キーラは感心したように盤面を見つめる。
「さっすが兄さん!」
「当然だ」
謙遜しない態度も痺れる!
「では」
「ダーズ」
「はぁい」
まだ何かあるらしい。
「次は此のゲームをしよう」