恋は盲目とは言うけれど
「はー」
列切りをしてトイレに退散。洗面所で手を洗い顔を上げると途端に鏡に現実が映り込んだ。
あまりによく似ている──似ていないのは身長くらいなものだ。そりゃまあ敵対している身として嫌と言うほど顔を見てきたし口調も仕草も覚えたくなくたって覚えてしまう。それにしても彼はよくもまあ右手だけでああも立ち回れるものだな。撮影時以外は左腕を出しておきたいところだが設定に反することはしたくない──オタクの意地というものである。
「──どわっ!」
化粧直しを済ませたところで時計を見て意外と時間が掛かってしまったことに慌てた。急いでトイレから飛び出すと曲がり角で衝突事故。
「す、す、すみませ……」
尻餅をついたミカゲが顔を上げると。
「おや」
知っている顔がにっこり。
「創造神じゃないか」
今更、見間違えるはずがない。
光の化身キーラがどうしてこんな所に──!?
「申し訳ない」
キーラは手を差し出す。
「視界に入れるのも憚られる不要な情報に溢れ過ぎているばかりに見落としてしまった」
……あれ?
「御手をどうぞ」
もしかして。気付いていない──?