恋は盲目とは言うけれど
今年も。この日がやってきた。
ウィンターコミックマーケット!
今日まで頑張ってきた自分、お疲れ様!
この日の為に雨にも負けず風にも負けず戦ってきたと言っても過言ではない。崇めてきた神絵師たちの手によって描かれた本の数々を迎える準備は出来ている。後は最後の戦争に打ち勝つだけ──それだけの予定だったのだが。
「視線こっちください!」
シャッター音。
「一度の撮影は三分まででお願いしまーす!」
……はあ。
なんで拙者が。
普段敵対している亜空軍率いる主将、狂気の双子の兄の方である創造神マスターハンドにコスプレしないといけないので御座るか──!?
三日前。
「インフルエンザ!?」
ミカゲは思わず声を上げた。
「面目ない……」
通話の向こう側で同胞たるその相手が辛そうに咳き込んでいるのを聞いては責められない──しかしあの大々的なイベントを前に病気に罹るとは運が悪いにも程があるで御座るよ、同胞。
「戦利品は責任を持ってお届けするで御座る」
「恩に着るぞミカゲ殿ぉぉ……」
止むを得ず。
「ついでといっては何なのだが」
疑問符。
「実は当日に併せの予定がありまして」
そういえば。
この同胞はコスプレが趣味なのだった。
「衣装は送りますので!」
通話の向こう側で手を合わせているのが容易に想像できる。ミカゲは溜め息を吐き出して。
「代理コスプレの代金は」
「差し引きで」
「交渉成立で御座る」
あまりコスプレの経験はないが普段からオンとオフで立ち振る舞いを変えているくらいには何というか演技力にはそこそこ自信がある。要は成り切ればいい訳だし、という訳で二つ返事。
まさかその時の安易な判断が裏目に出ることになろうとは思いもよらなかったのである……
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