ロックマンの何もしない一日



……目を丸くする。

「だから今日くらいは正義のヒーローとしてのロックマンはお休みして一般人のロックマンとして過ごしてもいいと思うんだ」

ルーティは「ねっ」と言って笑った。

そんな矢先にバイクの群れが法定速度を上回る速さで道路を走り去り、その後ろをパトカーが追いかけていき。普段なら気付いた時点でエネルギー弾でバイクのタイヤを狙って転倒させるくらいのことはやって除けるのだが今回は彼の言葉に従って見送るだけに留める。

「意外と何とかなるものだよ」

今しがたすれ違った老婆が腕に抱えていた紙袋をうっかり落としてその中に入っていた蜜柑や林檎を道に転がした。ここでもロックマンは敢えて振り向くことはなくけれど通りかかった人々は一個二個拾っては老婆に手渡して。

「罪悪感があるな」
「世の中の大半は何も出来ない人なんだから」

飼い犬のリードが外れて慌てて追いかける人や転んでしまう家族連れの子ども。

「何もしないというのは些か新鮮だな」
「頑張りすぎだよ」

苦笑いを浮かべるルーティを差し置いてロックマンは何となく緊張の糸が解けていくのを感じた。正義部隊として警戒を張り巡らせる行為がこれほどまで体の負担となっていたとは。

「ひったくりよー!」

正面から走ってくる男を見つけてロックマンは目を閉ざす──かと思いきやすれ違いざま男に足を引っ掛けて男は派手に転倒。

「脚が長いからな」

何も聞かれてはいないのに笑顔で話す彼に何もしないという行為は難しそうなものである。……
 
 
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