犬猿の仲なれば



今ここで戦っても仕方ないのは分かっている。やり場のない怒りを扉に向かって電撃を放つ形でぶつけたが最高火力を以てしても扉は無傷で立ち塞がる。だああっ、と声を上げて扉を連続して蹴り上げても当然のことびくともしない。

「……知能が知れているな」

ロックマンは溜め息。

「放っとけ!」

扉の向こう側からは捨てられた仔犬のような物悲しい心にくる鳴き声が聞こえてくる。一刻も早くこの部屋を脱してやりたいところだがこういったご都合主義の塊は指示通りに従わないと大抵解放してくれない。だからといって本当に従うのも相手が相手なだけに反吐が出る。

「、?」

いやに静かだな。

スピカは訝しげに振り返る。

「おい」

見れば──ソファーに腰を下ろして頭を抱えているロックマンとその目の前のローテーブルの上には分かりやすく空になったコップ。

「飲んだのか!?」
「……喉が渇いていたからな」
「知能が知れてんのはどっちだよ!」

ご自由にどうぞとばかりに置かれたそれに何も仕込まれていないはずもない。ロックマンは自身の体を襲う変化に眉を寄せているが抗えなくなるのも時間の問題──スピカは舌打ちするとドアノブをガチャガチャと捻った。

「いっ」

針のようなものがぷすりと。

「……どうした」

スピカは急ぎ自分の手を確かめる。人差し指の腹に赤の一雫が小さく浮かんでぎくりと。

……毒、じゃない。……まさか。

「ぐ」

揃いも揃って!

「っ……」

仕掛けられた罠にまんまとかかり体を巡る薬にスピカは早くも壁に手を付いて眉を寄せる。

まずい。……めちゃくちゃまずい。

このままじゃガチでこいつとヤる羽目に──!
 
 
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