今宵、最高のひと時を
グラスを置く音。
「それで」
その青年は縮こまっている女性に目を向ける。
「僕を指名したんだね」
トイレから戻ってきたルキナはシュルクを指名していた。いい加減に誰かを指名しなくてはとおろおろしながら選んだのが彼。実は席に戻って早々に少し離れた席のルフレに身振り手振りでマークを指名しなさいと指示を受けたのだが先程の光景を目にしてしまったばかりにどうも意識してしまってその気にはなれなかった。
「シュルクさんは……するんですか」
「何を?」
「壁ドンです」
「しないよ」
何を心配しているんだ。
「……する相手は選ぶと思う」
シュルクはぽつりと意味深にこぼしてルキナに目を向ける。きょとんとしている様子の彼女に憂いな感情が胸の内に滲んだ。
「……ルキナは」
自然な仕草で無意識に彼女が背中を預けているソファーの背凭れに腕を掛けながら。
「好きなの?……」
憂いを含んだその瞳に魅了されないはずもなくじっと見つめて囚われてしまう。
「好き、……というのは」
ゆっくりと言葉を返して唾を飲み込めば。
「それは」
シュルクは目を細めて──
「シュルク?」
本人とは似ても似つかないドスの効いた声。
「ま、マーク?」
影が差してギョッとして顔を上げれば。
「何をしているんだい……?」