今宵、最高のひと時を
わいわい。がやがや。
異様だと身構えた空気もようやくのこと慣れて各所で遠慮なくシャンパンが入り盛り上がりを見せる中敢えて席を外した女性が一人。
「はぁ……」
ルキナだった。食堂内にあるトイレの一室に平然を装って逃げ込むことに成功したがどうにもあの空気には慣れない。もてなしてくれようとする気持ちは痛いほど有り難いのだが全員参加ということは必然的に自分の父親がホストを演じている場面に出くわすというわけで。まさか指名まではしなかったので遠くから見守るだけだったが──共感性羞恥とはこのことを差すのだろうと今でも胸が締まる感覚に襲われる。
繰り返すようだが彼らは一人としてふざけてはいない。女性陣をもてなすために下準備を徹底して現在のような盛り上がりがあるわけで──であればこうして羞恥を感じて逃げるのは無論失礼に当たるのではないだろうか──
「、?」
話し声が聞こえた気がしてルキナはそっと扉を開くと個室を出た。入り口に二つの影が落ちているのを見つけて抜き足差し足、……忍び足。
「──大胆」
ベヨネッタの声。
「でもちょっとおいたが過ぎるんじゃない?」
壁ドン。
「言葉の選び方には気を付けた方がいいぜ?」
仕掛けているのはリドリーである。腕を組んで壁にもたれ掛かるベヨネッタの顔面のすぐ横を減り込む勢いで壁を殴るような形で腕をついて見下す──少女漫画などでよく騒がれる光景のはずだが破片がぽろぽろと落ちている辺り修理費の方が頭にちらつく。
「俺様を指名しろ」
こういう接客というか商売もホストの業界では客側としてはご褒美だととられるばかりに目を瞑られている行為ではあるが実際第三者として目にすると刺激があまりにも──
「あら」
ベヨネッタに気付かれるとルキナは飛び上がる思いだった。たちまち耳の先まで顔を赤く染め上げて頭のてっぺんから湯気を吹き出すと。
「失礼しました!」
ぴゅうっと風を切る勢いで横切る。
「若いわね」
ベヨネッタは笑って。
「刺激が強すぎたかしら」