今宵、最高のひと時を
シュルクはちらりとルキナを見たがその距離に自分で驚いて飛び退いた。無意識とはいえ一般的に見て許されない目と鼻の距離──マークが青筋を頬に浮かべて見下すわけである。
「ち、違うんだよ」
顰めっ面のマークが手を翳せば逆さまの魔法陣からぽとりと魔導書が落ちた。それを手で受け止めれば魔導書はぱらぱらとページを開く。
「マークさん!」
ルキナは顔を俯かせていたが膝の上で拳を握りながら意を決したかのように顔を上げると。
「私が指名したのはシュルクさんです!」
グサッ。
「あーあ」
誰かがぽつりとこぼした。全てが崩れ去るかのような音が遠く──思わずふらついたが何とか持ち堪えてマークは構え直すと。
「シュルク!」
どうして。
どうしてこうなった。
「うわあっ!」
マークが手を翳せば周囲に風が巻き起こり幾つもの風の刃がシュルクを襲った。これをシュルクは当然回避するわけだがそうなれば風の刃が他に被弾するのは必然で。それこそ今まさに注がれたシャンパンを口にしようとしていたセフィロスのグラスの持ち手から上の器部分が風の刃の餌食となってしまいこれまた必然的に。
「面白い」
愛用の刀が喚び出されて。
「ちょっと!」
あれやこれやという間に大乱闘である。
「何やってるんだよ!」
「おおおっおまいら落ち着くで御座るうう!」
阿鼻叫喚。……と思いきや。
「、ふ」
ルキナを筆頭に女性陣は笑いだす。
「あーこれよね」
「畏まった格好も素敵ですけど」
ひと頻り笑った後で。
「私も参加、指名したいです!」
どんなに着飾ったところで。
求めるのは。
「仕入れたシャンパン以上に高くつきそうだな」
呆れて溜め息も出ないロックマンの予想通り、後日とんでもない額の請求書が届いたのは言うまでもない話。
end.
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