知らぬが仏であるならば



……体が重い。

「ミカゲ?」

途端、現実に引き戻される。ここはレイアーゼ都内にあるデパートの百貨店の中。買い出しを頼まれてマークと出掛けていたのだがついつい物思いに耽ってしまった。

「どうかしたのかい?」

こういう時、どうしても彼は勘がいい。どくんどくんと心音が止まないのを無視してミカゲは苦笑いを浮かべながら手を振る。

「な、何でもないで御座るよ……」

胸が苦しい。

「……本当に?」
「兄さん!」

じいっと顔を覗き込むマークだったが次の瞬間聞こえてきた声に救われた。

「ルフレ。……それにルキナ」
「お疲れ様です」


携帯端末から受信音。


「もう。またゲームしてるの?」

毒づくルフレを他所に自然な手付きで端末の画面をタップして開けば尊敬して止まないユーザーの更新通知が二件三件飛び込んできた。ああよかった、学業は無事落ち着きそうなんだなと安堵する一方で悪魔が囁く。


──依頼人は?


「うっ」

途端、こみ上げてくるものを感じて口元を手で覆いながらミカゲは駆け出した。マークだかルフレだか驚き声を上げていたような気もするが構うはずもなく。──依頼人を裏切った。

裏切った。


依頼人を見殺しにした。
 
 
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