知らぬが仏であるならば
ミカゲは──答えなかった。その短い沈黙さえ耐えられなかったのかスピカはため息をついてゆっくりと語り出す。
「ネットの活動者とそのアンチ」
元々は互いに同じカテゴリーの閲覧者側で──お前の標的が才能を開花させてネット上で活躍し始めたのをよく思わなかったらしいな。よくあることだ。珍しい話でもないだろ。
「こっちもやってることは同じだけどな」
スピカはもう一度息をつく。
「双方の経歴は確認するんだよ。一応」
彼の考えは正しい。受けた依頼を正義と信じて淡々とこなすだけの自分とは大きく異なる──けれど自分だってこれまでの自分の行動が誤りだったとは思っていない。若い内に芽を摘んでいるだけ。今は親しみやすい調子で活動をしていたのだとしても何がきっかけでその影響力を悪用して信者を巧みに操るものか分からない。
「逆恨みですね」
追い討ちのように。ダークファルコがぽつりと言うのを聞き逃さなかった。
やがて、ゆっくりと構えを解く。水で模った苦無は形を崩して屋根の上にこぼれる。そうして表情に影を差すミカゲを横目にダークウルフは腕を組みながら息をつく。
「……人間だな」
ダークウルフが顎をしゃくるとダークファルコはアサルトライフルを構え直した。赤の双眸は間違いなく標的を見据えて。いよいよもって引き金に指をかければ引き返せるはずもない。
ミカゲは瞼を閉じる。
銃声は。──夜の静寂に呑まれた。