知らぬが仏であるならば
暗闇に浮かぶ赤の双眸──その相手は目が合うなり親しみやすい笑みを浮かべてみせたがだからといって警戒を解くはずもなかった。その髪色が青だったなら自分が尊敬の念を抱く相手で間違いなかっただろうが闇夜に溶け込みそうな漆黒の髪は──間違いなく。彼は偽物集団ダークシャドウの一員、ダークファルコである。
「むやみやたらに構うな」
ダークファルコの傍らで呆れたように。
「仕事に集中しろ」
──スピカ。その隣には案の定ダークウルフが付いておりミカゲをひと睨み。
「気張ったって何も出てこないっスよぉ」
へらへらと肩を組むのだからミカゲは反射的に弾いて飛び退いた。その際懐に忍ばせておいた苦無でその人を掻き切ったはずが黒い煙が身代わりとなりその場に残るだけで。程なく少し離れた位置に「危ない危ない」と気の抜けた声で言って笑いながらダークフォックスが現れる。
「横取りしようなんざ思ってねえよ」
スピカは短く息をついて。
「分かるだろ」
つまり。自分にとっての依頼人であり、彼らにとっての標的が近辺にいる。
「おやおや」
ダークファルコはくすっと笑って。
「……妨害しないんですか?」
心臓の跳ねる音。相手も此方側の迷いを知って乱そうとしているのだ。
「リーダーが集中しろっつってんだろ!」
ダークウルフが一喝するとダークファルコはやれやれといった具合に肩を竦めて予め用意しておいたアサルトライフルを構えた。──挑発のつもりだろうか。彼らはあろうことか目の前で此方の依頼人を始末しようというのだ。