You are Game Master!
レバーを弾き──まるでキーボード入力の如く素早くボタンを叩いてコンボを打ち込む。
常人には真似のできないこの一連の動作は全て"右手のみ"で行われる。それこそ隻腕というリスクと十数年付き合ってきた賜物とも言えるだろうがそれだけに非ず彼の者の場合は加えてゲームに関する知識量と分析能力。更に読みの強さと機転の速さまで備わってくる。
即ち。
「チートコマンド」
不意に小さく呟けばそれが届いたのか向かいの男はギクリと肩を跳ねた。
「数々の挑戦者をそのような狡猾な真似で叩き伏せてきたのだろうが」
静かに視線を上げたその目は深海のように。
……深く。
「実力に狩られる気分はどうだ」
にやりと笑み。
「──終わらせてやる」
レバーを弾いてその寸刻キー入力が生きている内にボタンを素早く叩き込む。
マスターの操作するキャラクターが普通の人が操作を行うのと変わらないどころか強者以上の動きで立ち回れるのも、画面の外側ではこんな光景が繰り広げられていたからこそ。
男が慌てて体勢を整えようとするが遅くあれよあれよという間にゲージは削られていき──
「さっすが!」
──歓声の中で一旦退場したふたりは自販機の前にいた。見事勝利を収めたのである。
流石は自分の兄だと褒めて称えるクレイジーに対しマスターは自販機のラインナップをじっと見つめたまま動かない。
「ま、ああいうのも悪い気はしないよね──」
「クレイジー」