36.5℃



微かに残る温もりを。

「クレイジー」

そっと手の中に握り締めて。

「覚えているか」


いつか。お前が熱で倒れた日のことを。


弟にしては珍しく話に静かに耳を傾けてくれていた。然程長くもない話題なのでものの数分で話を終えてしまったが。

「あのさ」

口を開いた弟に。

「怒らないで聞いてほしいんだけど」

きょとんとして顔を向ける。

「あの時の僕は兄さんが思うほど寂しくなかったんだよ」


それはもう遠い日の記憶。


「なんて言うのかな。絶対兄さんが来てくれるって分かってたから」

熱により遠退いていたはずの意識が遠く聞こえる靴音に引き寄せられた。


やっぱり。

来てくれたんだ。


「……だから」

紡ぐ。

「本当に寂しかったのは」


ねえ兄さん。

良いも悪いも半分こだよ。


噤んでしまう言葉を、感情を。

どうかこの僕に。


僕たちは。

分け合って生まれたひとつだから。


「素直じゃないんだから」

そっと掴んだ手のひらで制して。

「……うるさいな」


応えるように握り返す。

手のひらに伝わる温もりが。


僕たちの適温。



end.
 
 
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