36.5℃



まったく。

「……ほら」

片腕といってもその状態でもう十数年と過ごしている。包丁を扱う姿は一見して危ないが俺の手にかかればこの通り。

今度こそ薄く皮を剥いた林檎を食べやすいよう均等に切り分けて。形こそ歪だが先程より遥かにマシと言えよう。

「兄さんって器用だよねぇ」
「お前が不器用なんだ」

毒を返せば喉に言葉を詰まらせて。

「せっかく買ってきたのに」
「買わせたんだろう」


ああ言えば。


「……でもよかった」

椅子に座った弟は自身の脚の間に左手を置いて微笑する。

「ぐっすり眠ってたみたいだからさ」

そういえば。自分にしては珍しく快適な睡眠だったかのように思える。普段の目覚めといえば自分は低血圧なのか決して良いものではなくそれと比べると如何に熟睡していたのかが分かる。

「……ずっと」

おもむろに。

「傍に居てくれたのか」

それを訊ねると弟は一瞬きょとんと目を丸くしたがすぐに肩を竦めて。

「……当然だろ?」
 
 
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