36.5℃
……俺は。
「ん、」
瞼を疼かせてゆっくりと。
ぼやけた視界に映り込んだのはもう随分と見慣れてしまった天井で。そこでようやく自分は懐かしい夢を見せられていたのだと気付く。
「あ」
声に誘われて其方を向けば。
「起きたんだ」
浮かべた笑みは優しく、柔らかく。
「……おはよう。兄さん」
眺めていた俺はたまらず顔をしかめた。
「クレイジー。やっぱり俺が」
「いいのっ」
弟は変わらず赤い果実と奮闘しながら。
「兄さんは病人なんだから」
曰く。飲まず食わずの三日三晩で研究に没頭し続けた俺は体調を崩したらしい。神様なんだから、今更人間と同じものを定期摂取するなど不要だろうと意見申し立てたいところだが何もこれが一度ではないのだから口を噤む他ない。
いつまで経っても一向に研究室から出てこない俺を心配して覗きに来てみれば。
気を失っていた、と。
「出来たよ」
「おい」
皿に乗せて差し出された林檎はというと可哀想に痩せ細ってしまっている。
「それは何だ」
「消化のいい林檎はお約束だろ」
「違う。見た目の話をしているんだ」
弟はばつが悪そうな顔をして、
「いいじゃん、別に」
「剥いた皮の方が厚いじゃないか!」