36.5℃
夜。消灯時間を過ぎて寝静まった頃。
見計らったように瞼を開いた。普段なら隣で間の抜けた顔をして眠っている弟がいるはずのスペースをちらりと見つめてベッドの縁に移動し、足を下ろす。
部屋を出ると通路を照らす蛍光灯も必要最低限のものしか明かりが点いておらず薄気味悪い闇に満たされていた。それが特別不便という話でもないがそれでも何かに躓き音を立てたのでは警備員が駆けつけたり対処が面倒なので。
蛍光灯をじっと見つめて目に焼き付け、それから差し出した右手のひらに視線を移す。たちまち変化は訪れ右手のひらの上に握り拳ほどの大きさの白い光の球がぼうっと浮かんだ。ふわふわと浮遊するそれは意思を持っているかのように体の周りをぐるっと一周して、手招くように少し先の足元を照らしながら進み出す。
目的の場所は決まっていた。
つんとした薬品の匂い。微かに聞こえる痛ましい声。唯の一度も目もくれず通り過ぎてたったひとつ目的の場所へ。
暫くして電子ロックがかけられたドアを正面に迎えた。其処を正しく安全に突破するためのカードキーも暗証番号も生憎持ち得ていないが問題はない。