36.5℃



瞼の裏にまだ真新しく焼き付く。

舞い上がる赤。劈く悲鳴。

「……、」


そっと瞼を開いて小さく息を吐く。まだ濡れたままの髪をタオルで拭っていた手を止めると拭いきれていない水滴が床にぽつりぽつりと滴り落ちた。

なんて言われたのか。それはもう覚えていない。ただ記憶に色濃く残るのは散々からかった挙げ句肉片と成り果てた……

「マスター」

はっとして振り返ると脱衣所の扉の側に博士が立っていた。

「具合はどうだ」

数歩足を進めてきたが此方が目を逸らすのを見てぴたりと足を止める。

「身体値の測定は」
「上出来だ。申し分ない」
「……本当にそう思いますか」

それを訊ねると博士は口を噤んだ。

確かに今回身体値の測定をする上で良い結果は出せたかもしれない。けれどなにひとつ問題がなかったのかといえばそうではなく事実彼らプロジェクトに携わる側の人間として大事に扱ってきた貴重な被験体を壊れ物にしてしまった。

どれだけ天才でも。物を創り出せても。


俺が。ひとり、居ただけでは。


「今日はもう部屋に戻って休みなさい」

程なくして告げられた博士の言葉に。

暗く影を落として最後まで視線を交わさないまま。俺は小さく頷いた。
 
 
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