36.5℃



研究施設内にある、とある一室。

プロジェクトに携わる特異な能力を持つ子供達の検査を行なう為のこの場所では今日も嗅ぎ慣れた薬品の匂いが漂う。

「A-002基マスターハンド」

研究員の男がカルテを手に告げた。

「基準値を確認、異常は見られません」


欠けている。


ぼうっと頭の中で思った。異常などとは火を見るよりも明らかだろうに。

「この子だけですか?」

数ある研究員の一人と思しき女性が目をぱちくりとさせて怪訝そうに訊ねた。

「はい。A-003基クレイジーハンドですがどうやら体に異常が」
「死んじゃうの?」


ドクンと心臓が大きく跳ね上がる。


「やめなさい」

どうやら今しがた声を揃えた少年少女の双子こそ、諭した女性が管理を受け持つ今回の相手らしい。

「……本当にやるんですか?」
「問題ありません」

博士ははっきりと応えた。

「身体値の測定がまだなので」

いつにも増して冷たさを感じさせるその視線は静かにカルテへと注がれている。

「……行きなさい」
「はい、博士」

酷という話でもない。欠けた分を補えるだけの術を自分は得ている。

「あははっ可哀想!」
「死んじゃうよ?」

静かに視線をもたげて言葉を放つ。

「だったら。殺してみるといい」
 
 
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