あだ名で呼ぼう!



はあ、と小さく息つく声。

釣られて振り向き、目を開く。

「……スピカ」


ああもう何だってこのタイミングで彼が此処に。話を何処まで聞いていたのやら呆れた表情で立ち竦む彼の側ではダークファルコがくすくすと笑っている。

「素直じゃないですねぇ」

と。ダークファルコは口を開いた。

「自分もそうして呼びたいのならひと言申せばいいのに」

そうしてルーティが恐る恐る顔を向けると視線が合ったその途端上手いこと目を逸らしつつ余計なことをとばかりにダークファルコを睨みつけた。どうやら事の発端というのは彼の発言にあった様子。

「さぞ滑稽に映ったことだろうな」
「ええ、それはもう」

焚き付けるような物言いに冷たいものが背中を流れるのを感じて。案の定周囲の空気がひんやり冷たく変化するのを直に感じ取ったルーティは慌てて。

「あだ名のことなんだけどっ!」
「俺が付けたんだ」


遮ったのは。


「……子供の頃。こいつが自分の名前は女の子みたいで嫌だなんて我が儘抜かしやがったから俺が勝手に付けたんだ」

スピカは黒ジャケットのポケットに手を入れた姿勢のまま。

「だから別に。そう呼びたいなら勝手に呼べばいい」

紡ぐ。

「でも俺がそいつにあだ名を付けたのは仲良くなるためじゃないからな」
 
 
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