第三章
返す言葉もない。何の警戒も根拠もなく、ただ幼馴染みであるというだけで頼ったのは紛れもない事実だ。密かに握り締めた拳を震わせ尚も口を噤むスピカをクレイジーはそれ以上は咎めないが冷めきった目で見つめていた。
「じゃあさっきのも嘘なの?」
「嘘?……ああ」
投げかけられた質問に視線を戻す。
「神力のことだろ。使えないよ」
流暢に嘘を吐かれたものだ。
「で。状況は?」
「レイアーゼ政府は国を挙げて捜索。狙いは間違いなくマスター様とクレイジー様でしょう。ルーティ・フォンは今朝方の新聞で一面を飾り全国的に指名手配されていることが判明」
ダークファルコが答える。
「尚──凡そ二十分前に居場所を突き止められ我々は攻撃を受けています」
「タブーだな」
そう呟いてマスターは小さく息を吐き出す。
「ここも直に見つかる。移動するぞ」
「え、あっ──大丈夫なの?」
大まかな状況を把握したところでもう既に先を歩き出していたマスターとクレイジーは慌てて問いかけるルーティを振り返る。
「はぁ? 何がだよ」
「だってまだ──」
「神力のことなら気にかける必要はない」
ルーティは眉を寄せる。
「あぁもうめんどくさいなぁ! 説明してやるからさっさと足動かせってーの!」