第三章



◆第三章『神の力』



どうしよう。

呑み込む唾も無いほどに口の中が乾いていた。獲物を見下す双子の目からは一切の感情も読み取れず他の介入を許さない。纏う空気がそれを物語っているのだ。恐怖を感じ取った体の中の内臓が縮小してしまっているような感覚。

ああ。勘違いをしていた。どうして受け入れてもらえるものだと思い込んでいたのか。

彼らは自らの意思で人間に歩み寄ろうとした。けれどそれを裏切ったのは、紛れもない彼らが受け入れようとした人間なのだ。数多の人間の一部である自分が。どうして自分だけは許してもらえるものと都合よく解釈出来たのか。

「クレイジーは」

それでもようやく声を絞り出すことが叶えば草踏み迫る足音がぴたりと止んだ。

「今は……破壊の力が使えないんだよね?」

空気の圧に動悸が増す。

「あは。死にたくないんだ?」

クレイジーは目を細めて嘲るように口角を吊り上げたが直ぐさま掻き消して見下す。


「僕たち神様だよ。そんなわけないじゃん」


ぼとりと。目線を横に逸らせばすぐの場所に片翼を傷つけられた小鳥が墜落した。か細い声で痛みを訴えるその子は余程の幸運を持ち合わせない限り助からないだろう。茂みを揺するのは草食か肉食か──自身の置かれた現状を重ねてしまいながら再開する足音に顔を上げる。

「飛んで火に入るとはこの事だ。人質としての価値もない鼠を世話する義理もない」
 
 
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