第二章
……裏目に?
「俺たちは影から様子を窺っていた。信用していなかったわけじゃないが不測の事態に備えるのは当然の義務だろ?」
情景が脳裏に浮かび上がる。例えば都心部から離れた森の中。大きく開かれた場所で本来なら敵対する陣営の将軍が向き合う。交渉の内容は前日から提案していた。どうあれ応じなければ強硬手段に出るまでと禁忌兵器を傍らに。
そこに快諾以外の余地はなく。司令官たる男は笑みを浮かべる。ほんの一瞬の油断。
光の束が──双子の背後の禁忌兵器を貫いた。
無傷。気に留めるまでもない光の奇襲と誤断を犯したばかりに禁忌兵器は敵の思惑どおり目の色を変えて牙を剥く。瞬く間に金の鎖が双子を捕らえると全ての力を抑え込んだ。飛び出した影の下僕たちを撃退するべく予め仕掛けられた光の魔法が発動すれば為すすべもなく。……
「じゃあ」
ルーティが言うとスピカは頷いた。
「タブーは連中どもの手に落ちている」
思わず息を呑む。新世界創造計画用人型禁忌兵器とも称されるタブーはマスターとクレイジーの神力を分け与えられて生み出された。その繋がりは最も特別でどんなに離れていても互いの場所を認識できる程だ。うっかり亜空間に身を隠そうと飛び込めば亜空間という未知の空間の存在を知らしめる形となる恐れがある。
古代兵器を目覚めさせようと企てていた連中を容易に踏み入らせるのは危険だ。どういう形で利用されたものか分かったものじゃない。
「とにかく。こいつらが目覚めるまで亜空間に戻るってのは無しだ。得策じゃない」
ルーティは静かに頷いた。
「でも」
続けざま。
「意外だよね。二人が油断するなんて」
「仕方ないんです」
それまで黙っていたダークロイが口を開いた。
「マスター様とクレイジー様は本気で人間との争いを終わりにしようとお考えでしたから」