第一章
ふと。目の前に差し出されたのは。
「……あ」
ルーティはその手を借りて立ち上がる。
「ありがとう……?」
「ああ」
差し出された赤を目に一瞬どきりとしたが今時珍しい赤の手袋だったのだ。
白黒のドミノマスクの奥で静かに見据えて踵を返し黒のロングコートをはためかせる。思わず目を奪われていると背後に気配を感じた時には遅く、わしゃわしゃと頭を掻き撫でられた。
「うわっ」
ルーティは怪訝そうに見上げて。
「いけ好かねえ野郎だ」
「さっきの人のこと?」
眉を寄せる。
「すぐに疑うのはよくないよ」
そうは言ったが続けざま小さな声で。
「確かに怪しいけど」
先程の青年の名前はジョーカー。何でもとある怪盗団のリーダーを務めているらしくもう既に察せられていることだろうがジョーカーというのも本名ではなくコードネームなのだとか。
その素性も以前までのルキナ以上に明かされておらずあのロックマンでさえ困ったように笑う始末。そんな人を正義部隊に招いてもよかったのかと問い質したいところだがそこまでは踏み切れないというのが現状。先輩として忠告ではないにしてもアドバイスくらいはしたいところだけど威厳はバトルトーナメント第三回戦敗退という形で砕かれたようなものだからなぁ──
「ウルフ!」
呼ばれた本人ではなくその側にいたルーティが大げさに肩を跳ねた。
「ルーティを虐めてるんじゃないだろうな!」