第二章
スピカは黙っていた。電話の向こう側でどんな顔をしていたのかなど想像がつくはずもない。けれど彼は確かに呆れたように。けれど何処か安心しきったような声色でぽつりと。
「……馬鹿野郎」
そう言って。通話は切れた。
決心はついている。自分の胸の中で大丈夫だと繰り返し励ましながら携帯をポケットの中へ。こんな時間に着替えて表玄関から出ていくのは怪しまれてしまう可能性がある。皆が寝静まるまで息を潜めて待っているわけにもいかないしとにかく零時までには合流しないことには。
「ルーティ」
心臓が口から飛び出るところだった。
「……フォックス」
部屋に戻ったのでは。そんなことを口走りそうになるが何処か憂いを帯びたような瞳にハッとした。恐らく此方の後をつけて今までの会話を盗み聞きしていたのだろう。こうして目の前に現れたのは思惑を阻止するためだろうか。
「えっと」
返す言葉が見つからない。
「あ」
時間がないのに。
「あのね」
覆い被さるようにして。
強く。……強く。
「あいつらを助けてやってくれ」
思ってもみなかった言葉が降り注いだ。
「……頼む」
「フォックス」
程なくして解放される。
「……疑うのはやめたんだ」
フォックスは薄笑みを浮かべながら。
「何があっても。俺たちはルーティを信じて、戻ってくるのを待っているから」