第一章
……なんて。
くだらないことを思う時間が愛しい。
「気色の悪い野郎だな」
「えっ」
慌てて振り向くとウルフの乗っているハッチの硝子面に自分の顔が映り込んだ。成る程確かににやにやとした笑みなど浮かべていたようで。
「えぇと」
自分の顔にぺたぺたと触れて綻びを正す。
「あっほら! レイアーゼだよ!」
誤魔化すように。最も操縦しているウルフにはそんなこともっと前から分かっていただろうが──ようやく形もくっきりと分かるほどに接近した目的地を見つめて大きな声を上げる。
「不思議だよね」
ぽそりと。
「あれが未だにどういう原理で浮いているのか解明できていないなんて」
「未知は未知のままであるからこそ美しい」
マークが柔らかな笑みを浮かべて手を振る。
「なんてね」
「私はそうは思わないけど」
反対に寝覚めが悪かったのやら普段より冷たい声音でルフレが続け様に。
「いくらレイアーゼが先進国だと言っても浮遊大陸である原理が解明できていない以上はいつ浮力を失って墜落してしまうかも分からないという話でしょう。この世界の安泰を望む前に、まずは活動拠点の安全を保障するべきだわ」
一見して難しいことを語っている様だが。
「ルフレって優しいんだね」
「別に。私が困りたくないだけよ」
冷たく返されてしまった。
「君の周りには多いんじゃないのかい?」
「えっなにが?」
「こういう気難しい──君のパートナーとか」
「あぁ……」
「聞こえてるぞ」
真下である。