第十一章
彼が普段趣味嗜好を嬉々として語る時の目とは断じて違う──まるで戦場に舞う鮮血を写したかのようなワインレッド。ハイライトを失せた絶対零度のように冷えきった目──彼の種族は蛙であるはずなのにその目で見据えられたら蛇であれ声を失って死を覚悟することだろう。
ルーティは息と唾を同時に飲み込んだ後でもう一度スピカを見た。確かに峰打ちのお陰か先程までの凶暴な様子とは一変して浅く呼吸を繰り返しながら気を失っている。無理矢理揺すって起こしたとして本当に次目覚めるのはスピカではなくその父のクレシスなのだろうか──?
「やれやれ」
声がして振り返れば。
「彼が幾分か素直で助かったよ」
「……父さん」
この状況を救われたのは事実である。ルーティが礼を述べるとラディスは首を横に振って柔らかく笑いかけた。
「でも」
ルーティは改めてスピカを見つめながら。
「どうしてスピカの中にクレシスさんがいるって分かったの?」
「それ僕も思ったんだよね」
ようやくジョーカーの監視から解放されたらしいカービィがコピー能力を解きながら歩み寄る。
「ああ、ええっと」
するとラディスは何やら気まずそうに。
「……それは、その。……勘、……というか」
えっ?
「……マジ?」
ルーティは弾かれたようにミカゲを振り返った。どうやらジョーカーと話をしているようで此方の様子には気付いていない。笑うに笑えない真実にカービィは明後日の方向に目を遣りながら。
「僕、しーらないっと」