第一章
「うわっ」
……躓いてしまった。
ルーティは巨大な穴の中心付近まで降りてきていた。危ない危ないとゆっくり息を吐き出して転げ落ちなかったことに安堵しつつ──辺りを見回してみる。浅いとは言っても地上を軽く見上げるほどの高低差はある。企みによって生み出された穴だったとしても結局のところそれが継続して使われている形跡はない。
「……?」
不審物を見つけて目を凝らす。穴の中心に何か転がっているようなのだ。怪訝そうに近付いてみるとそれは硝子の破片のようだった。ただの好奇心で拾い上げては見たものの硝子にしては表面はサラサラとしているし反対側は鮮やかな橙色。傾けると青紫色に色を変化させて子供が喜んで収集しそうな代物だ。
「おい」
ビクッと肩を跳ねる。
「何を拾ったんだ」
「う、うん」
頷いて恐る恐るそれを差し出す。
ウルフは破片を受け取ると眉間に皺を寄せた。表と裏を繰り返し交互に凝視していたが同じく情報を得られなかったのか差し出したまま一部始終を見守っていたルーティの手のひらの上にぽとりと落とす形で返して。
「光り物なんか集めてんのか」
「僕が真面目に調査していないみたいに」
カラスじゃないんだから、と言おうとも思ったがそれだと自分が鼠だと認めたようで癪だったのでやめた。兎角膨れっ面でいると粗方調査を終えたのかルフレとマークがやって来て。
「何か分かったかい?」
「あはは」
苦笑いで応える。
「マーク達は?」
「僕たちも人のことは言えないんだけどね」
「その代わりいくつかの仮説を立ててみたわ」