第十章
不意に黒煙が吹き飛ばされればラディスはすかさず向き直りスピカは静かに顔を上げた。水苦無を改めて生成して徐に視線を向けたその人の双眸は深い紫の色に染まって、……紫?
俺の見間違いだっただろうか。
最初に対面した時の彼の目の色は確か──
「────────ッ!」
咆哮のようなそれを暗闇ばかりのこの世界に響かせた後水苦無を振るって駆け出すミカゲにラディスはハッとして四つ足を踏み込む。それでも尚構えようとしないスピカをラディスは横目に捉えて訝しんだがその答えはすぐに明かされた。
「ァ、」
次の瞬間。
「……え」
死角側面から突如として突き出した棘に。
「ギャ」
斜め後ろから正面から容赦なく。
「なにをしているの?」
ほんの一瞬の出来事だった。
「うるさかったからね」
ひたひたと素足が地面を触れる音。
「来ちゃった」
ダーズが戻ってきた。
「ぁ……えっ、と」
上手く言葉が出てこない。
多分あれは戻ってきたダーズが煩わしくて手を出した結果なんだろうけど流石にあれは偽物だったよね? 目は紫色だったわけだし、……狼狽するルーティにダーズは笑顔のまま小首を傾げる。
「もしかして、友達だった?」
「あ、いや」
「殺しちゃったかも」
反対側に首をかくんと傾けながら。
「ごめんね?」