第九章
◆第九章『本物と偽物』
ルーティとウルフはゆっくりと立ち上がった。警戒を解かないまま静かに構えるその傍らでラディスも赤い頬袋に青白い閃光を走らせる。突如として現れたマスターハンドの群れは尚も無言のまま何も仕掛けてこない。それだけにこうして一斉に突き刺さる視線があまりにも不気味だ。
「マスターは」
ルーティは持ち得ている情報を共有する。
「キーラに攫われたんだ」
「じゃあ一体こいつらは何だ」
分からない、と小さな声で答えれば。
「な」
発砲音。
「マスター!」
ルーティは思わず声を上げた。それもそのはず、向かって正面にいたマスターの眉間にウルフが銃弾を撃ち込んだのである。これには流石のラディスも言葉を失うばかりで直後の地面に倒れ伏せる音を聞いても尚硬直は解かれずに。
「なんでっ」
「こいつらは紛いモンだ」
ウルフは確信を得たように呟く。
「双子の餓鬼じゃねえ」
何を判断材料としたのか分からないがそれにしたって寸分の迷いもなく神様を相手に発砲するとは如何なものか。色々と言いたいことはあるが当たり前にふざけている様子でもない横顔を見つめていれば土を踏む音に振り返る。
「……!」
そこには先程確かに眉間を撃ち抜かれたはずのマスターが立っていた。風穴はそのままに、けれど相変わらず無言無表情で此方を見つめていたが違いがあるとすればコバルトブルーの瞳を縁取るようにして赤い光を灯しており、加えてその変化もその一体だけではないという恐ろしい事態。
「……怒らせちゃったかな」
「だろうな」
狼の耳が不審な音を誰より早く拾って叫ぶ。
「──来るぞ!」