第八章
◆第八章『蜘蛛の糸』
お兄様。お兄様。
……どうして。
助けに来てくれないの?
「ぅ」
小さく呻いて瞼を震わせる。頭の中にまで響く幼い声に呼び覚まされるように意識を手繰り寄せられるように瞼を開いて視界を広げる。
「ルーティ」
ぼやけた視界の中に黄色の塊を見つけて暫く目を凝らしていればそれが次第にはっきりと正しく情報として読み込まれた。父さん、と小さく呟いてルーティはまだ鉛のように重い体をまずは上体から起こしてそれから辺りを見回してみる。
「……ここは」
風もなければ音もない。
空気はあるけど冷たくて寂しい。見渡す限りの黒と黒。まだ完全に意識がはっきりしていないからかもしれないが視界に収まる範囲に人影も建物も見当たらない。黒以外の色を持っているのが自分と父親だけみたいでそれが遠目に見てもいやに目立っていることだろうなと薄ぼんやり思った。
「分からない」
ラディスは遅れて質問に答えた。
「ただ──」
「起きられるよ」
言われるよりも先にルーティは立ち上がる。
あのマスターとクレイジーがそれぞれキーラとダーズに囚われた後だ。どんな力で何処に投げ出されたのか知らないが兎角ゆっくりしている時間も余裕もない。自分に何が出来るのかは不透明だがそれでも行動に起こさないことには。
「歩こう」