第四章



スピカの繰り出した蹴りはやはり透明な防壁によって阻まれる。やむを得ず防壁を蹴り出して後方に飛びながら腕を払い黒の雷を放つ。だがしかしそれも当然の様に透明な壁が吸収した後螺旋した羽が形状を細く鋭く変化させて空中で身動きの取れないスピカに襲い掛かる。

「っ!」

螺旋した羽による攻撃はスピカを丸く囲った青白い防壁により防がれた。直後伸びてきた鎖がスピカの足首を捉えると勢いよく地上へと引き戻し二度目の螺旋した羽の突撃を回避する。

「手荒な真似をして申し訳ありません」

鎖基フックショットを使いスピカを助けたのはリンクだった。

「後で慰謝料請求するからな」
「そんな余裕があればいいのですが」

リンクが視線を遣った先でキーラの双眸は再び深紅に染め上げていた。どうやらあれは感情によって大きく分けて三段階変化するらしい。

「穢らわしい」

キーラは冷めた口調で静かに吐き捨てる。

「創造神並びに破壊神。神域に群がる愚鈍共をどうして野に這いつくばらせるのか」
「勘違いをするな。この世界の主は俺と弟だ」

マスターは冷静に言葉を返す。

「であれば己の箱庭に好きな物を並べて愉しむのは自由だろう」
「箱庭を語るには余りにも穢れている」

螺旋の羽が畝りを見せて羽軸を大きく広げる。

「嗚呼。嘆かわしい。五千年前──私が浄化を果たせなかったばかりに」

淡い光を灯して。

「私利私欲の蔓延るこの世界をそれでも尚静観するのならそれは王であっても神に非ず」

目を細める。

「女神の天秤の傾斜。災厄の箱の行方──その全てを神話だと語るのなら軽蔑すら覚えよう。この世界を導く創造も阻む破壊も只の手遊びでしか成り得ないのだと言うのなら」

キーラの周囲に幾つもの光の球が生成される。攻撃の予兆を感じて誰もが構えた。


「全てを呑み込み、糧にして」


響く──私は。完全な"神"に成る。
 
 
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