エピローグ
◆エピローグ
例えば。
それは羊水の中のように甘くて。誰かの手の平のように優しくて。抱かれたように温かくて。何にも例え難い安心する空気が充満するようなそこに水が揺蕩うみたいに浮かんでいた。
何の気なしに瞼を開くと。
空があった。遥か彼方先まで見えるはずもない空色と橙色のコントラストの美しい空が。
反してその下に広がるのは赤の光が飛び交う暗く重たい色の空だった。決して混ざり合うことのない空がずっと自分を見つめているような、そんな感覚に捉われながら。ふと思う。
起きなきゃ。
感覚が戻ってくる。身体中に電気が流れるみたいに風に吹かれて靡く髪や自分の体温をひとつひとつ思い出して目覚めていく。
遠く。名前を呼ぶ声がした。
辺りを見回してみても声の主は見つからない。そもそも起きるのだと意気込んだところで一体自分は何処へ行けばいいのだろう。
おきて。
振り向いた先には空が果てしなく続くだけ。
ルーティ。
馴染み深い名前に小さく目を開く。──途端に腕を引かれて真っ逆さまに。
「こっちだよ」