最終章-後編-
柔らかな風が吹き抜けていく。
岩陰には早くも自然の脅威とも言うべき変化が訪れ始めていた。希望と未来を謳うかのように僅かな緑が地を彩っている。晴天を横切る鳥の群れが歓喜を述べるかのように囀る。
この世界を。
生命が祝福している。
「っ、」
不意にマスターがよろめくと傍のクレイジーが慌てて支えた。
「兄さん」
「少し……力を使い過ぎたな」
マスターはゆっくりと頭を擡げる。
「……そいつ」
クレイジーが視線を向けた先にはウルフの腕の中で眠るルーティの姿があった。
「すぐには目を覚まさないよ」
続ける。
「僕たちと同じ──神力を使った反動だ。本当なら魂も体も全部めちゃくちゃにブッ壊れてもおかしくないくらいだったんだけど」
その先を詳細的に話すことはなかったが恐らく彼らが配慮してくれたのだろう。
「それでも」
言いかけて言葉を呑んだ。迷いも躊躇いもない真っ直ぐな眼差しに柔らかな笑みを浮かべて。
「お前たちなら待つよね」
淡い光が灯る。
そうして次第に体が透けていく彼らを誰もただ見守る他なかった。この世界の管理者における役目を果たした彼らを。そのために神力を使い果たした代償を負う創造神と破壊神を。
「マスター」
「クレイジー」
静かに名を呼ぶ声は彼らにどう響いただろう。
けれど浮かべた表情は穏やかで。
「ありがとう」
我が愛しの子らよ。
「────"また会おう"」