最終章-前編-
甘えん坊で。泣き虫で。
無邪気な笑顔が似合う大切な妹だった。
そう。誰よりも。
「安心してください」
はっと気付けば四つの影。
「こいつだけじゃないんで」
「お兄さんの大事な妹さんは傷付けさせま」
「お兄さんなんて呼ばれる筋合いはない」
「否定すんの早っ」
ディディーとトゥーンは小さく笑う。
「こいつらがヘマしても俺たちがいるんで」
「安心してください」
ネスとリュカが口々に。
ああ。ずっと見縊っていたはずの小さな背中がこうも頼もしく映るなんて。何か返そうと口を開いたはずが言葉は溶けて消えた。やむを得ず閉ざしたが口元に薄く笑みを浮かべて。
「ダークシャドウ」
告げる。
「撤退だ」
慕うその人が告げればダークウルフはそれまで浅く息を弾ませていたが最後の力を振り絞って取り出した銃を後方に向けて発砲。弾が虚空を貫くと程なく大人が一人通り抜けられるくらいの大きさの穴まで内側から押し広げられて。
「無理させたな」
手招く亜空の世界へ足を運ばせる最中スピカはふと口を開く。
「妹さん」
ダークウルフは腕を抱えながら。
「立派になられましたね」
「ああ」
スピカは瞼の裏に思い描いて呟く。
「……俺の自慢の妹だ」