最終章-前編-
纏う空気は限りなく澄んでいて。
けれどその人が一歩踏み出せば側に生えていた僅かな希望の象徴ともいえよう野の花が一瞬にして枯れ果てた。いつにも増してざわつく胸が逃げろ逃げろと叫んでいる。
「まさか」
誰かの口から溢れた言葉を信じたくもない。
「ぅ、」
次の瞬間ルーティは足を止める。双眸には淡い光が戻ってきて──かと思えば小さく呻き数歩後ずさる。次に重く顔を上げた頃には光は抑え込まれるように失せてしまい、けれどそれ以上何を仕掛けるでもなく浅く呼吸を弾ませる彼の中では何者かが企みを阻んでいるようで。
「ルー」
ぽつりと零せば走る頭痛に相手は顔を歪めた。
「ぐ……う……!」
その名前を呼ぶなとばかりに。
「そこにいるんだな」
確証を得てスピカは改めて希望を抱く。
「リーダー」
照りつける日射しに眩みそうになりながら腕を抱えて上体を起こすダークウルフを尻目に見つめたが砂利の踏む音が聞こえれば向き直って。雲が味方してくれる瞬間を待つか──ともあれこのタイミングで引き下がるわけには。
「う」
呻く声に引き戻される。
「ルー!」
閉ざしかけた双眸を見開いて。
「あああぁああぁああッ!」
空気が振動するほどの声量で拒絶するように。バチバチと音を立てて閃光が飛び交い、程なくして青い雷撃が放たれた。
「──!」
最後の力を振り絞るようにして飛び込んだのはダークウルフである。直前に赤い反射板を展開させたが即座にひび割れて崩壊──呆気なく吹き飛ばされ地面を転がるダークウルフを追って抱き起こす。息つく間もなくその背後で電気の擦れる音にスピカはぎくりとして振り返るも、攻撃は目前にまで迫っていて。
「スピカ!」