最終章-前編-
「──ッッ、げほっげほっ!」
温かな光に強制的に意識を手繰り寄せられて咳込む。霞む視界に青空が映り込めば凡そ状況は把握して死にそびれたものと自覚する。
「父さん……!」
覗き込む我が子の内一人が両目を潤ませて泣きついた。浅く呼吸を弾ませながら見上げた先でお姫様が酷い顔で見つめている。全くどうして俺は二度も三度も助からなきゃならないのか。これが運命の悪戯だってならこの世界の神様もどうかしてやがる。間違っちゃいないが。
「ばか、ばか……っ!」
ピチカは繰り返し胸を叩いた。
「本当に死んじゃったらどうするの……!」
小さく息を吐き出す。
「何も変わらなかったらとか」
スピカは膝の上で固く拳を握り締める。
「家族の事とか考えなかったのかよ……!」
もったいない言葉だ。
本当に。
「クレシス」
それまで黙っていたフォックスが口を開いた。
「満足したか?」
霞む。
「死にたくてやったわけじゃない」
視界が歪む。
「……お前だって、そうだろ」
嫌なものを見せつけられたんだ。運命を相手に身を運ばせて不幸ならそれで納得したかった。自分は世界に日常に冷静で無感情で人より軽い気持ちで手を離せるものだとばかり。
それが。
勘違いで情けなかった。
「馬鹿なことばかりしてないで」
雫が滴り落ちる。
「ちゃんと、生きなさい」