最終章-前編-



黒の閃光を身に纏わせて。

息つく間もない速さで駆け抜ける。

視線の先には親友の血を色濃く受け継いだ──少年がいる。精鋭機関の連中も手こずっているようだがなるほど確かに何者かを殺めるような事態にまでは至っていない。放浪の悪魔の魂が見当たらないが恐らく奴と双子が融合するまで中で無理矢理に繋ぎ止めているのだろう。それでも致命傷まで与えず同じ場所に留まり続けているのは御三方の抵抗の賜物か。

だからといって安心はしていられない。融合が果たされて崩壊したのが少女ルキナの語る未来だったのだから。──正義部隊は戦意消失か。情けない話だが自分たちの尽くしてきた全てが最悪の未来を手繰り寄せたのだから誇りを胸に正義を掲げてきた連中には辛い話だろう。

……、……正義の戦士、か。

「クレシス!」

何者かが声を上げたが構わない。密かに小さく息を吐いて対象を見据えれば纏う電気が弾けて黄金に色を変える。──それは紛れもない闇を打ち払うと共に親友の命を散らせた禁忌の技。


最後の切り札ボルテッカー


「父さんっ!」

最後に聞こえたのは娘の声だった。

愛した妻の声こそ聞き届けたいものもあったがそれでも充分すぎるほど幸せだったのだ。実験動物として研究施設こそが全てであった自分が外の世界へ連れ出されて愛する妻に出逢えて、子供に恵まれて──目まぐるしい速度で変わりゆく環境に温かな感情さえこぼれ落ちる日々にただただ幸せを噛み締めて。


……そう。

もう、充分だから。


終わらせよう。

ラディス。お前の愛した全てを。
 
 
16/40ページ
スキ