最終章-前編-
……口を噤んだ。
「殺さず生かすことだけが全てじゃない。なら今のあいつはどうだ。本当に守るべきなのか。もう元には戻らないかもしれない──いつ何を破滅させるかも分からないただの人から外れた奴を守り抜くのが本当に正しいことなのか」
繰り返し問いかけるクレシスにスピカは言葉もなかった。諦めずに戦っていれば何かの拍子に正気を取り戻して望んだ結末を得られるものと都合のいいように考えていたのだ。
「父さんは」
「俺はそうは思わない」
はっきりとした声音で告げた。
「苦しいのはお互い様だ。こうなってしまった以上奴が何を考え何を訴えるものか考えろ」
紡ぐ。
「それでも繋ぎ止めるべきか否か」
アイツなら。
自らの犠牲を選ぶだろう。
ああ。知ってるよ。……お前は優しい。
……でも。……それじゃ、ダメなんだよ……!
「ッ!」
地が揺れる。顔を上げる。
「再三言っているが時間がない」
砂利を踏み込む音を確かに聞き届けて。
「生かすか殺すか。迷いがあるなら諦めろ」