最終章-前編-



小さく息を吐く。

「──だから言っただろうが」

次の瞬間。

「ッ!」

肉眼では追えない速さで黒い光が駆け抜けると鎖が音を立てて割れた。突如として解放されて困惑している間にスピカの体は何者かによって抱きかかえられ回収される。

「世話の焼けるガキだ」
「父さん!」

クレシスは攻撃圏外まで運ぶと言われるよりも早く地面に下ろした。

「いいか。もう前線には出るな」

頭ごなしに声を荒げようとして止めた。

「……本気なのかよ」

拳を握り締める。

「アイツは俺の幼馴染みで。……親友で」

ぽつりぽつりと語るも構わず背を向けてしまうその人に追い打ちをかけるように叫ぶ。

「ラディスさんの子供なんだぞ!」

踏み出す。

「守るために戦ってきたんじゃないのかよ!」


……水を打ったような静寂が訪れた。

それでも言葉を待っているとその人はようやく口を開いたのだ。

「"守る"って何だと思う」

突拍子もない質問に直ぐさま気の利いた言葉は出てこなかったが元より待つつもりもなかったらしくクレシスは正面を向いたまま紡ぐ。

「安全と安心を保障することか? 怪我や病気とは無縁に健やかに過ごしてもらうために手を回し保護することか? 純粋無垢の潔白で日々過ごしてもらうために外部からの情報を遮断し不純物に染められないよう図ることか?」
 
 
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