最終章-前編-
……あの時と同じ。
苦い記憶に鈍痛が襲う。繰り返してしまうかもしれない恐怖に瞼を閉ざす。赤いスカーフの下仕舞われたペンダントのチェーンがまるで首を締め付けるかのようで息苦しささえ覚える。
「フォックス」
……俺は。
「っ、!」
どしゃりと地面に叩きつけられたのは。
「ダークフォックス……!」
「いっ……つつ、……あぁどーも本物サン」
のそりと起き上がって腰を摩りながら顰める。衣服には煤けた痕と肌の表面には小さな火傷が幾つも窺える。浅く息を弾ませる彼は要所要所色が異なれど瓜二つとだけあってまるで自分が傷付けられているかのように錯覚してしまう。
「高みの見物っスかぁ?」
「そういうわけじゃ」
「まぁどうでもいいっスけど」
ゆっくり立ち上がるも視界が眩んだ。すかさずフォックスが体を支えるとダークフォックスは酷く突き放すではなくやんわりと離して。
「無駄とか無駄じゃないとか。そーゆーの気にしちゃう系?」
軽薄な笑みを浮かべて。
「これが無駄でも何もしなかったより絶対無駄じゃないって言い切れるっスけどねぇ」
遠ざかるダークフォックスのただ背中を眺めるフォックスと肩を並べて口を開く。
「格好つけやがって」
「そうだな。でも」
ふっと目を伏せたがもう一度。顔を上げれば。
「その通りだと思う」
双眸に。
確かな意志を宿して。
「ったく」
ファルコは笑う。
「空気の読めない太陽だぜ」
見上げれば青い空に眩しく陽の光が射す。
「、どうした?」
何かが引っ掛かっている。