第十二章
振りかざされる。はっと気付いた時には遅く、風の音。反射的に目を瞑る。
「……いいわけ……っないだろ……」
次の瞬間温かな手のひらが頬を触れていた。
優しいその人には感情に任せて手を打つなどといった芸当が出来るはずもなかったのだ。
「実体さえあれば対処の自由が利く。見殺しにしようなんて思っていない」
でも。
「"お前だけは"駄目なんだ……!」
ルーティは──抱き締められていた。
「未来を絶望に陥れたのはお前なんだよ。それが分かっているのなら尚更──お前だけは行かせるわけにはいかない。お前を行かせたらそれこそ何もかもが水の泡になるんだぞ……!」
遠く。
時計の針を刻む音が響いている。
上空──創造神と破壊神の魂を閉じ込めた黒い鳥籠が畝りひとつの禍々しく渦巻く漆黒の塊と変貌を遂げた。其れは赤黒い光の球──悪魔の指示に従うかのように確かにまだそこで倒れたままのロックマンに狙いを定める。
「そっか」
静かに瞼を閉ざす。
「ルーティ」
心苦しい選択だとしても。
運命を捻じ曲げる唯一の方法なのだとしたら。
「──ッッ!」
突如として神経に微量の電撃が走ると為す術もなくフォックスは膝をついた。ぱっと顔を上げればもう既にその少年は遠く見つめている。
「分かってる」
問われるよりも先に答えて。
「でも」
少年は言葉を紡ぐ。
「それで本当に未来が変わるのだとしても──納得なんかできるはずがない!」