第十二章
……空高く浮かぶ赤黒い光の球。
それ以外の姿形こそ窺えないがそれでもそれがかつてこの世界を悪夢に陥れた放浪の悪魔ベンゼルであるということだけは分かった。背中と思しき後方には内側から破り開いたかのような歪な形の黒い羽根を広げて。彼の語る創造神と破壊神と思しき魂はそれより上空の黒い鳥籠の中に纏めて閉じ込められている。
あれに意思があるのならこの状況を打開するということも期待したいがそれが可能であればそもそもの話、こちら側がこうも追い詰められるほど焦らしはしないだろう。彼らの意地の悪い性格を考えれば有り得ない話ではないが世界の命運がかかっているのだからいくら悪ふざけであれ流石に笑い事では済まされない。
「さて」
眼があるでもないのに可笑しな話ではあるが、確かに視線のようなものを感じたのだ。途端に砂利を振り込む音と同時に庇うようにして目の前に立ちはだかったのは見慣れた後ろ姿。
「フォックス……」
ルーティは静かに名前を呼んだ。
「絶対に譲らないさ」
正義部隊の恐れた絶望の未来の背景には。
彼の姿があった。
何としてでも殺さなければならなかったということは深い関わりがあるどころの話ではない。未来を絶望に陥れたのは恐らく──
「無駄な事を!」
笑い声。
「好きなだけ足掻くがいい」
其れは値踏みをするかのようにじろっと地上で警戒を張る戦士たちを見渡して。
「──私は誰だって構わないのだから」