第十二章



おびただしい数の魔方陣が展開されて。

パルテナがゆっくりと手を払えば白い光の球が放出される。光の球は次第に形を変えて平たい正方形のカードに──切り裂くべく襲いかかるが動じず障壁で余さず弾き落とす。間を置かず虚空を蹴り出したクレイジーが自分の周囲に赤黒い魔方陣を展開させて左目に閃光走らせれば魔方陣の中心から人一人分ほどの大きさもある黒い爆弾を幾つも放った。

しかし先程の攻撃より幾らか遅いそれが見切られない筈もなく冷静に張り出された青の防壁によって悉く弾き落とされてしまう。だが構う様子もなくクレイジーは素早くパルテナの側を横切ると上昇。丁度その頭上、虚空を掻っ捌いて紫の闇の覗く空間を顕現させる。

全てを呑み込もうとするその空間は強風を巻き起こして先程弾き落としたはずの爆弾をも引き寄せた。不覚にも視界を外していたパルテナが振り向いた時には既に遅く連続して爆発。

「……く」

英断だった。回避の姿勢に移ると同時に黒煙を破って飛び出したのは──兄のもうひとつの姿である白い巨大な右手袋。まさか女神が創造神の器を借りられるはずもなくそれ自体は真似て創り出したものだったがそれでも此方の不意を突くには充分すぎるものだった。

反射的に張り出した障壁を砕かれ破片が粒子となり消失する。肝心の右手袋はそれだけの役目だったのか徐々に透過して消え失せるとその影から接近していたパルテナが背中の翼を大きく羽ばたかせて目前へ。後ろ手に構えた杖を何か動きを見せるより早く柄を向けて鳩尾に──

「クレイジー様!」
 
 
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