第十二章
音。……音。
兄が今ここでもし聴いていたなら雑音と称しただろうか。否、或いは美しい調べだとうっとり目を細めたのかもしれない。昔から兄の感性は理解し難いものも確かに存在したのだから。
「随分と余裕ですね」
クレイジーは静かに目を向ける。
「花占いってさ」
おもむろに口を開く。
「同じ種類なら花弁の枚数も同じだから、結局結果は変わらないんだよ」
羽ばたく。白い羽根が舞い落ちる。
「あいつらが必死に戦ったって足掻いたって。同じ世界線なら結果は変わらない」
静かに目を細める。
「……そう思っただけ」
上空から戦いの様子を見守るクレイジーの側に現れたのはパルテナだった。目的を果たすべく双眸には紅の灯をともし騒ぎに紛れ接近を図りその機会を窺っていたのだろう。
「諦めますか?」
しかし直ぐに手を下さない辺り肉眼で判断できないだけで求める隙が生じないらしい。
「何故、兄さんが譲ったのか」
鮮明に映し出される。
「今なら分かる気がする」
曇天の記憶。
「諦めないだろうね」
小さく笑って振り向いたと同時にクレイジーの背後に赤い魔方陣が展開された。誰の仕業でもなく魔方陣の縁には黒い文字が刻まれ、それが詠唱の役目を果たすのか魔方陣は応えるようにして仄かな光を灯しだす。
「僕たちじゃなくて」
そう。
あいつらなら。