第十二章



多く見かける白い衣装とは逆に黒い衣装に身を包んだ彼がそこに居た。

「おにぃ」

不安げに呼ぶ声に小さく頷く。

「構えないで」

冷静にリムが制した。

「敵意はないわ」
「まあね。僕たちが戦って何になるのさ」

視線を流してクレイジーは己の髪を人差し指に絡めて弄びながら目を細める。

「未来は変えられないって」
「言ったろ。YESでもありNOでもある」

ごくりと息を呑む。

「多少のズレはあったとしてもイレギュラーが時間遡行を行なった以上区切りとなった未来に必ず辿り着く。それだけは絶対に違えない」

続け様、

「だからといって別に今までの行動が全部無駄だったわけじゃないから。うちの部下が計画を明かさなければ何も知らないまま進行していただろうし、あいつらに不審な動きを悟られれば先回りして殺されていた可能性もある」

クレイジーは静かに視線を戻す。

「結局は"絶望の未来"に深く関与するお前とフォーエス部隊以外は脇役でしかないんだよ」

視線を向けられたルーティは口を噤む。

「貴方はどうなのですか?」
「神様だからね。脇役でも主役でもないよ」

クレイジーはそう言ってまた視線を流す。

「ま、関係ないってことはないかな」

皆まで語らずとも彼の双子の兄であるマスターハンドがフォーエス部隊に捕らわれたのはあの日実際に目にした紛れもない事実だった。

「話に戻るけど」

はっと顔を上げる。

「そいつが言った通り未来を変える為にはギリギリまで引きつけてから軌道変更を行う必要がある。単純に数でボコるのは容易いだろうけどあっちが兄さんの創造の力を使役できるのなら一筋縄じゃいかないだろうからね」

クレイジーは自分の胸に手を置いて。

「──その対抗策に。破壊神ぼくを使わせてやるって話だよ」
 
 
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