第十一章
黒煙を突き破って現れる。その姿こそ確かに視界に捉えたはずなのに次の動きは目に追えないほど速く瞬きを許せば目前だった。
どう構えても間に合わない──そう踏んで咄嗟に電気網を張ったがそれも万全ではなかった。青白い光の刃が触れた途端バキンと耳に障る音が響いて砕け散る。電気網を突破されたが最後無防備な身体に残された結末は容赦のない──
「ッが、は!」
鳩尾に拳と蹴り払いを受けて。吹き飛ばされるその間にも追ってくる。再度振りかぶったのを目で捉えて直後の振り下ろしを腕に電気を纏い防いで弾いた。けれど引かず次の横薙ぎも同じように電気を纏った腕で弾き返す。
一瞬であれ生じた隙は何としても見逃せない。直ぐさま雷を放って吹き飛ばし自身は後転して地面に着地する。しかし休む間もなく残された黒煙から炎の柱が放たれて即座飛び退く。
「──焦燥かい?」
背後。
「今更だね。けどもう遅い」
鋭利な切っ先を差し向けられる。
「ここにいる限り君の声は誰にも届かない」
後ずさる。
「無論、僕たちにも」
砂利の音に振り向けばシュルクが立っていた。
「僕は絶対に諦めない」
「強情だね。誰も気付かないのに」
くっと顔を顰める。
「考えてもみてごらん。人目の触れない場所で諸悪の根源がひっそりと絶たれるというのは誰しもが望んだ解決の在り方というものだろう? 君を大切に想う人たちだって君が──しかも仲間であるはずの僕たちの手で殺められようだなんてその目にしたくはないはずだよ」
マークは笑う。
「だとすれば僕たちの提案する最善はこうだ。君は誰に知られることもなく未来を受け入れて命を絶つ。そうして見届けた君の最期を僕らも悪いようには扱わない。未来の為、世界の為に自らの人生を犠牲に捧げた──」
かくんと首を傾けて。
「君は未来永劫語り継がれる英雄となる。ね? 悪い話じゃないだろう──?」