第十章



ぽつり、ぽつり。

大きな粒が地面を濡らして。それが合図か引き金か雨足激しく世界を叩き始める。

「ルーティ」

誰かがその名前を呼んだ。

「もう」

いつから。或いは何処から。

「信じられないとか」

前髪を垂れて影差す彼はその場所で。

「疑うとか」


聞きたくないよ──消え入りそうな彼の訴えは雨の音に掻き消された。


「……僕だって」

落ち込んだ声音が辛く突き刺さる。

「信じたい。最善を尽くしたい」

硝子のひび割れる音が遠く小さく聞こえて。

「分かってるよ」

痛く。苦しく。

「でも」

思えば思うほど。

「何を信じればいいのか──」


彼の心を蝕むのは"絆"という繋がりなのだ。


それこそが信じてきた、全て。

己が踏み出せる勇気の糧。


ほんの少しの縺れでさえ恐ろしいのならば。

目に見えて崩れ去る今この景色は──


「美しいな。絆というものは」


小さく目を開いた。

「けれど。だからこそ近過ぎるべきではない」

語り口調でゆっくりと迫ってくる。

「ご理解いただけたかな?」

その少年は。

「後は」

柔らかな笑みを浮かべて紡ぐ。

「我々にお任せ頂こう──」


嗚呼。誰も予感していた。

──別れの時は突然やって来るのだと。
 
 
 
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