第十章
……絆に。亀裂が生じるのを見た。
それでもその時ばかりは親愛する後輩を失ったショックで何も言葉がまとまらないでいるものだと信じていたのだ。きっと時を改めれば正面から向き合って言葉を交わし合い今度の事件の真相にも辿り着けるのだと。
そんな直向きな思いを。
裂くようにして裏切られたのは翌夜のこと。
──レイアーゼ都立図書館。
難しい話でもない。警備員休暇に基づき依頼を受けたがための夜間勤務というものだった。
本というものに興味はないがそれでも幼少期は様々な世界に魅せられたものだ。そんな懐かしい記憶を久しく思い返しながら並べられた本の背表紙を確かめるようにして触れて歩く。
……匂い。
懐かしく感じる香りの中に埋もれるようにして不審なそれを感じ取った。すん、と鼻で嗅いで顔を上げる。普段"犬"と称されるだけあって嗅覚が人より何倍も優れているのだ。
「ユウ?」
ふと、パートナーの名前を口にする。側にいた筈がいつの間にか見失ってしまっていた。暫し立ち尽くしたリオンだったがこの不審な匂いの正体を突き止めるべくその場を離れる。
……いやに鼻につくな。
辿るというより誘われるかのようだった。歩を進める都度匂いは強さを増していく。
と。ちょうど曲がり角に差し掛かろうというところで壁に反射するカンテラの灯りを見つけてリオンは思わず足を止めた。くん、と鼻を動かしたが確かに匂いもこの先に続いている。
意を決して踏み出す。
見覚えのある後ろ姿を見つけて。
「……ユウ?」