第十章
無我夢中で走った。
声も聞かず一心不乱に。
──あの時。判断を誤らなければ。
天空大都市レイアーゼ。息を弾ませて都心部に飛び込めば忙しくサイレンを鳴らしながら車が走り回っていた。非日常の空気に息の詰まる感覚を覚えながら辺りをぐるぐると見回す。
知らぬ人々は此方の気も知らず肩をぶつけては次々と通り過ぎていく。流れの速い人波にそのまま流されてしまわぬよう今にも千切れてしまいそうな張り詰めた糸のような気を何とか保ちながら息を吸い込むともう一度走り出して。
──ざわつき。
マルスは足を止めて振り返る。
人々が群れを成して何かを見上げている。
「下がってください!」
……警察の声。
高鳴る心臓はピークに達する。
嘘だと言ってくれ。
僕の大嫌いな嘘で構わないから。
今だけは。
「っ、君!」
止める声も聞かずに人の間を縫って抜けた。
陽が射して不自然な影が落ちる。
「、あ……あぁ……っ」