第十章
暗い、暗い。夜の街。ネオンのライトは途絶え誰も息を潜めたようにしんと静まり返る。
ひっそりと聳え立つ煉瓦造りの時計塔の針が、がちりと音を立てて十二時を差した。
鐘が鳴り響く。
厭に重苦しい鐘の音が。
「マルス」
──エックス邸。
「何処に行っていたんだ」
今しがた部屋に戻ってきたその人はまだ普段の衣装を着替えていない様子だった。そういえば夕方も姿を見つけなかったがこんな時間まで、何処で何をしていたのだろうとアイクは疑問を抱く。それまで読んでいた分厚い本を閉ざして視線を向けるも彼は顔色ひとつ変えずに。
「……別に。何でもないよ」
引き連れてきた空気が何処か冷たく窺えたのは気のせいじゃなかったかのように思う。
「、?」
ふと違和感を感じて凝視した。彼の感じた違和感など知る由もなくマルスはクローゼットから着替えを出すと。
「シャワーを浴びてくるよ」